進路決定早すぎる問題
倒れまいとして次々に足を前に出す、それが走るということだ、最初に二本足で立ち上がったサルはきっと全力で走ったんだ。
『村上龍』
こんにちは久保です
(写真は勉強頑張ってる学生)
【本当に進路は早期決定すべきか?】
中学生に進路決定を強いることは正気の沙汰とは思えません。
過剰な表現でしたが、進路決定に関しては早まらないでください。
「進路決定は早ければ早いほど良い。」教育の現場における不動のアドバイスです。
この言葉に違和感を感じないのは、早期の進路決定によるメリットが、見かけ上において、とても分かりやすいからです。
何と言っても最大のメリットは、学生の勉学に対するモチベーションの向上でしょう。
なかなか勉強に取りかかれないといった悩みを抱えている学生や、それを見て歯がゆく思っているご両親はとても多く見受けられます。
というより、95%ほどの家庭でそのような現状があるでしょう。
ですが、勉強する気が起きない状態は、極めて「普通」の状態です。
そのような現状において、やる気を出すための手段をあれこれ考えたすえ、「早期の進路決定」 は有効に感じるかもしれません。
しかし、です。
確かに、明確なビジョンがあれば、そこに至るために取り組むべき手段や、
中間的な目的などもはっきりし、勉強に対する意欲も上がるでしょう。
特に医学部受験などが顕著な例です。
医学部受験は進路決定が早い方が良い最たる例でしょう。
医学部の合格者は難関中高一貫に極端に集中しており、
そうでなければ県内トップの公立高校に進学することが、
統計上最も合理的であると判断されます。
それならば、小学4、5年生くらいから妥当ラサール中、または鹿児島大学附属中学校を経て鶴丸高校に進学する。
あるいは川崎医科大学附属高校への進学といったような構想は妥当なものと言えそうです。
そのような明確なビジョンがあると、直近の模試で高得点を目指す。
または独自のカリキュラムで受験対策をすることにも具体性が伴い、やる気も上がることはそれなりにあると思われます。
ですが、それも医学部受験の例ぐらいのものです。
それ以外の場合、つまり一般的な小学生や中学生(高校生でも同様でしょう)において、
進路を決定しようとすることに意味があるとは思えません。
なぜなら、単純にそれが不可能だからです。
そもそも原理的な矛盾があるように思います。
ここには、「個々人に依拠する原因」と、「実社会に依拠する原因」があります。
【個々人に依拠する原因】
個々人に依拠する問題は「学生時の知識量と思考力」によるものです。
将来のビジョンや進路を主体的に決めるためには、当然ですがかなりの知識が必要です。
私は毎日各種媒体から多様な情報収集をしていますが、
満足できるだけの情報を集めるには毎日4、5時間程度かかっていしまいます。
果たしてそのような時間が学生にあるでしょうか?
例えば中学生においては、義務教育の真っ只中であり、思春期の不安定な時期でもあります。
彼らは教室内カーストや定期テスト、部活動等の圧倒的なプレッシャーのもとで、自分たちの毎日を過ごすことで精一杯です。
塾等に通っているならなおさらのこと、さらなる授業や宿題に追われます。
となると、人生設計を考える上での多面的で横断的な知識を仕入れる時間はかなり限られてしまいます。
加えて、現代の情報収集において最も効率的な方法はスマホやパソコンでの検索やニュースアプリ等を用いることですが、
それでも真剣に調べれば相当な時間がかかります。
もし、中学生がそのようにスマホ等を用いての情報集をしていたとして、周りのご両親や先生等の周りの大人が、
「お!将来を見据えて情報収集なんて偉いな!」
と声をかけることができるでしょうか?
その代わりに、宿題や受験勉強など机上で何やら勉強していた方が好ましく感じてしまうのではないでしょうか?
むしろ、またスマホばっかりいじってと、怒り出す場面の方が多いように推測されます。
このように学生は、直近のテストや人間関係の維持以上に割ける時間はかなり限定的であり、
限られた時間で将来に関しての情報収集をしていたとしても、周りの大人から理不尽な圧力を加えられることが多いのです。
必要な情報を早期に得ることはかなり困難と言わざるを得ません。
そして必要な情報無くして、主体的に何かを決めていくことは無謀です。
競馬やパチンコと同レベルのギャンブルといえます。
また、中高生は、論理的思考力や決断力、直感力、クリティカルシンキング(批判的思考)、リテラシー能力等の決断に伴う能力をまだまだ身につけ始めた初期の段階です。
現時点の思考力において、将来生きる道を決めてしまおうなどと、なんと恐ろしいことでしょう。
新卒の22歳ビギナー社員に、大企業の会社運営を任せるような破天荒さを感じてしまいます。
【実社会に依拠する原因】
学生時代に早期進路決定をすることのもう一つの問題が、実社会に依拠するものです。
進路や将来の展望は、現在の社会を前提として考えることが前提となっています。
が、学生たちが働き始める社会は、今の社会ではありません。
彼らが生きる時代は、我々が生きてきた社会とはあまりに様変わりしていることが予測されています。
「小学校に入学した子供達の65%は、今は存在していない職業につくだろう。」
ニューヨーク私立大学大学院センターのキャシー・デイビッドソン教授
「今後10〜20年で47%の仕事が自動化される可能性が高い。」
オックスフォード大学、マイケル・A・オズボーン准教授
「2030年までには、週15時間程度働けば済むようになる」
経済学者、ジョン・メイナード・ケインズ氏
「人間とテクノロジーの複雑な相互依存の結果、あらゆる出来事が今の生活以上の規模で起こり、我々の理解を超えたものになるが、その相違点はすでに起こっている。」
WIRED創刊者、ニューヨーク・タイムズ、エコノミスト等の著述家、ケヴィン・ケリー
このようにそうそうたる知識人がこれからの社会の変容を指摘しています。
予測される社会の特徴は、既存の知識や技術が役に立たなくなる社会であり、予測不可能な社会であり、急速に変化し続ける社会です。
これらの社会に生きる子供達や学生たちが、今現在の人気の職業を目指したり、難関中学への入学を目指したりすることにいかほどの合理性があるのか、懐疑的にならざるを得えません。
文部科学省も2020年に向けて教育制度改革を推進しています。(ここで詳しく)
これは、まさに21世紀の激変の時代を見据えての大改革になります。
この改革の背景として、これからの社会がこれまでの知識詰め込み型の教育方針では意味をなさないことを、文部科学省がはっきりと認めているのです。
「自ら学び、考え、行動する力」
「どんな環境でも『答えのない問題』に最善解や納得解を導く力」
「社会を生き抜くすべを生涯通じて身につける力」
「新たな価値を創造する人材」
「グローバルな人材」
これらが文部科学省が要請している社会を生き抜く力と、養成していこうとしている人材です。
既存の知識詰め込み型の人材が成功しやすい社会ではなくなることはまず間違いありません。
これまでの社会の常識を持ち出して、これからの社会で生きていく子供達の進路を早計してはならないのです。
未来予測不可能で不確実性が高く、教師や親が子供の伝えられない社会。
変化し続け、人生観・職業観も教師や親が子供に伝えられない社会。
これが今の子供達や学生が生きていく社会です。
そもそも今決めたその進路は5年後には存在しない可能性の方が高いのではないでしょうか。
【ではいつ進路決定をすれば良いのか。】
それは第一に自分が本当に興味がある分野を見つけた時でしょう。
それはいつだろうと構いません。
極端な話小学生でも30歳でも良いのではないでしょうか。
私が指摘していたのは既存の認識のもとでの早期進路決定には原理的な不都合がある点です。
無理をして、今ある選択肢の中から焦って決めてしまうことに対する提起です。
興味や没入感が先行する分野があるのでしたら、それが自分の生きていく方向性、少なくとも大きなヒントである可能性が高いでしょう。
その分野への情熱が本物のようであれば、それに関して突き抜けてみるのはいかがでしょうか?
その分野も確実にこれから何かしらの変化が待ち受けていますが、その第一人者になるのも選択の一つです。
もう一つの考えとしては、賛否両論が激しくありますが、取り合えず、大学に入ってしまってからというものです。
大学生というのは、圧倒的に時間があるものです。
そこで初めて本格的な情報収集の時間も取れ、十分な思考力のもとでの決断もできるのではないでしょうか。
どの大学を選ぶべきかはまた別の話になりますが、かつて大手予備校が唱えていた
「理由はともかく大学合格」
これは、現在においても一理あるかもしれません。
どうしても早期に進路を決めてしまいたい場合は、中高校生であるとしても、何かしらの時間を大部分削ってしまい、情報収集と思考力の強化を優先してしまえば良いのではないでしょうか。
知識や思考力自体は時間さえ割くことができれば身につけることは誰でもできます。
また、将来の社会の展望に関しても、身につけた知識と思考力を用いて、大まかな流れまででしたら蓋然性が高い容態を垣間見ることは可能です。
いずれの場合においても、既存の「進路決定は早ければ早いほど良い」という精神は、危険な気がしてなりません!
以上
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